• 2024年12月16日

梅毒について

梅毒は毒素ではなく、細菌による感染症です。2011年以降、梅毒の患者さんが増えています。原因は定かではありませんが、梅毒は主に性交渉によって感染するため、不特定多数を相手に性交渉をする方が増えていることは明らかなようです。

出典:厚生労働省ホームページ (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/syphilis.html

男女、年齢別にみると総患者数は男性に多く、また年齢は男性は幅広く、女性は特に20代に多いことがわかります。総患者数は男性のほうが圧倒的に多いですね。

皮膚科で梅毒を診療することがしばしばあります。性感染症を皮膚科で診療することに違和感を感じられる方は多いかもしれませんが(内科や泌尿器科で診療するイメージが多いでしょうか?)、梅毒は皮疹を生じることがあるため、皮疹を主訴に皮膚科に患者さんが来られ梅毒の診断に至ったり、梅毒を疑われ内科や泌尿器科から皮膚科へ紹介受診される方も多いです。最近、テレビやネットニュースで梅毒が増えていることが報道されているからか、以前より自身が梅毒ではないかと不安になり受診される方が増えている印象があります。

〇梅毒はどのような病気でしょうか。

梅毒は梅毒トレポネーマという細菌による感染症です。主に感染者との性行為による粘膜同士の接触により感染します。感染すると数週間で接触した部位に固いしこりや皮膚がえぐれたような潰瘍ができます(硬性下疳:こうせいげかん と検索してみてください)。

明らかに異常な症状なのですが、陰部に症状が出た場合は医療機関に受診するハードルが高くなり、受診せず放置する方が多いようです(だからか私、実は硬性下疳を直に診察したことがありません)。ところが、症状は無治療でも自然に改善してしまうため、異常な症状が良くなったと思ってしまいます。

しかし梅毒は体から消えません。感染してから3カ月程度経つと今度は全身に発疹がでます。バラ疹と呼ばれる皮疹で、数ミリから1-2センチ程度の赤い発疹が体・手足に出ます。これが楊梅(ヤマモモ)に似るため梅毒と呼ばれるようになりました。バラ疹は皮膚に生じるため皮膚科受診されることがあり、この時に梅毒を疑うことができれば、血液検査を行ったり、感染した心当たりがあるかどうかを伺ったりして、診断することができます。またバラ疹以外にも扁平コンジローマと呼ばれる皮膚のできものが肛門や脇の下などにできることもあります。

バラ疹も治療せず放置すると勝手に良くなってしまいます。つまり、梅毒は感染後数カ月以内で2回皮膚症状が出ることがありますが、いずれも無治療でも勝手に良くなってしまう(ように思える)のです。梅毒を無治療で更に放置すると、数年後にゴム腫と呼ばれるゴムのようなできものが皮膚や筋肉などにできたり(これも私は実際見たことはありません)、大動脈にこぶができたり、神経がやられ歩行ができなくなったりします。ほかにも上記の全期間でけいれんが起きたり、目や耳が梅毒により障害を受けることがあります。

また、本人のみならず梅毒に感染した妊娠さんでは、赤ちゃんに感染してしまい、発達の遅れや白内障、心奇形など様々な症状を生じてしまいます。

〇梅毒はどう診断するのでしょうか。

硬性下疳や扁平コンジローマ、バラ疹で梅毒を疑うことはできても、皮膚症状だけで診断することはできません。皮膚症状で疑い、診断は感染した可能性のあるエピソードと、血液検査を合わせて診断します。血液検査では梅毒に感染した方で数値が上昇する2項目(RPRと梅毒トレポネーマ抗体)を参考にします。梅毒は菌を検出することが容易でないため、感染者が上昇することの多い2項目を参考にするのですが、RPRは梅毒でなくても上昇することがあり、数値が上昇しても梅毒に感染していない可能性があります。判断に難しい場合は時間を置いて再検査をします。

〇梅毒は治りますか?

梅毒は抗生物質が効くので、適切に治療すれば治ります。いわゆるペニシリン系の抗生剤が効きます。飲み薬の場合はまず1カ月続けて飲み、血液検査で治療効果が出ていそうであれば終了します。注射の場合は1回で治療が終わることがあります。

飲み薬でも注射でも、治療開始後に発熱や頭痛などの症状がでることがあります(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応と呼ばれます)。

〇性交渉以外でも梅毒に感染すると聞いたことがあります。

性交渉以外では母子感染が挙げられます。ほかには上記の血液検査項目の解釈が難しく、擬陽性(本当は梅毒ではないのに、検査では陽性になってしまうこと)を真の陽性とされてしまうことが考えられます。大量の梅毒の菌が含まれた体液などが傷口につくと感染する報告があるようですが、これは相当特殊な状況と思われ、日常生活で性交渉以外で感染する可能性は極めて低いと思います。

私が過去に診察した方では、真の梅毒患者さんはみなさんしっかり感染したエピソードをお持ちでした。

〇梅毒はどうすれば予防できますか。

感染者との粘膜同士の接触や体液の接触を避けるに尽きますが、上記のように梅毒に感染しているにもかかわらず無症状になってしまうことがあるため、梅毒に感染しているかどうかは他人から見て分からないと思います。ですので、梅毒を予防するには現実的には困難だと思います。それゆえ、梅毒はずっと人から人へ感染し続け、生き延びているのでしょう。

ですから、メディアでも良く言われているように、梅毒に感染したかもと思ったら医療機関か保健所に相談し、検査をして早期発見することが自分の為にも、また他の人に感染させないためにも重要です。

梅毒の検査は保健所で匿名、無料で行うことができます。

引用:国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/syphilis/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html

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