- 2024年7月13日
劇症型溶血性レンサ球菌感染症について
最近患者さんから“劇症型溶連菌感染が心配で”と言われることが多くなりました。
劇症型溶血性レンサ球菌(=溶連菌)感染症の患者数が増えているニュースをご覧になって不安になられたと思います。ニュースでは手足の切断が必要になるケースや、致死率が高いことなど怖い内容が報道されています。どのような感染症で、何に気を付ければよいでしょうか。
〇原因は?
まずこの病気の原因である溶連菌ですが、これはお子さんの喉の風邪の原因になったり(この場合病名は“A群溶血性レンサ球菌咽頭炎”となります)、顔や手足の皮膚が赤くなり痛みや熱が出る原因になったり(この病名は“丹毒”です)、とびひの原因にもなる菌です。いずれも溶連菌による感染症ですが、これらの病気で亡くなる方はまずいらっしゃらないと思います。
同じ溶連菌感染症でも命に関わらないこともあれば、劇症型と呼ばれるような症状を起こすこともあるのです。何故このような違いが起こるのでしょうか。
これは、溶連菌といっても様々なタイプがあり、強い病原性のあるいくつかのタイプ(毒素産生株やM株)が劇症型の症状を引き起こすと言われています。同じ日本人といっても、穏やかな日本人もいれば、凶悪な日本人もいるのと同じですね。溶連菌は一定の特長を持つ菌を人間か勝手に名付けたものです。喉が好きな溶連菌がいれば皮膚が好きな溶連菌もいるのでしょう。また、糖尿病や透析など細菌感染症に弱くなる状況にある方にも発症しやすいといえます。
〇症状は?
では、劇症型の溶連菌感染症はどのような症状で発症するのでしょうか。実は劇症型溶連菌感染症は、施設によりますが皮膚科で診療することも多い疾患です。この場合病名は“壊死性筋膜炎”となります。これは菌が皮膚の下にある脂肪や筋肉の表面で爆発的に増えることで発症し、皮膚に赤みや痛み、皮膚の壊死などを引き起こします。典型的な症状は、まず主に手足の先端に近い部位が赤くなり痛くなり、水ぶくれや血豆のようなものができ、数時間数日のうちにこれが広がっていきます。症状が強い場合は菌が血液に乗って全身にまわり(菌血症)、血圧が低下しショック状態となり、多臓器不全になって最悪命を奪われます。
壊死性筋膜と検索すれば色々写真が出てきますがこちらのマイナー外科・救急さんのホームページ
のページ下のほうの手足の写真が特徴を捉えていると思います(手足だけでなく、体にも発症することはあるので一例です)。
〇治療は?
治療は抗生剤の投与と、それだけでは菌を抑えることができないため、菌が増えている部位の皮膚を切開し、皮膚の下で増えている菌を物理的に洗い流すことが重要です。症状があまりに強いと皮膚の切開では追い付かず、手足の切断をしないと救命ができないことがあります。私も過去に数名治療をしたことがあり、残念ながら亡くなった方、亡くなる一歩手前まで症状が進んだ方、軽症で済んだ方など病状は様々でした。
〇早期の診断治療が望まれます
このような劇症型溶連菌感染症で大事なのは早期の診断、治療です。早期であれば皮膚切開が小範囲で済む可能性や、救命できる可能性が高くなると思います。例えば手を切った傷の周りが赤くなることはしばしばあるでしょうが、それが通常ではないくらい範囲が広がっている(例えば指先の傷なら、手の甲や手首まで赤くはれている)ことや、見た目に反して痛みが強いこと(壊死性筋膜炎は痛みが見た目よりも強い場合があります)、水ぶくれや血豆ができる(皮膚の下の組織がダメージを受け、皮膚が壊死しかけている兆候)などでしょうか。診断には症状のある部位の皮膚を少し切って内部の状況を把握する試験切開を行うことがあります。典型的な症状が出ている場合は診断は難しくありませんが、誰もが容易に診断できるものではありません。特に初期の頃では診断が難しいと思います。症状がある程度まで進行し、やっと正確に診断できることも珍しくはありません。
〇予防はできるか?
溶連菌の感染経路ははっきりしていないようですが、一般的にはくしゃみなどの飛沫感染や接触感染と言われています。傷を洗浄するなど適切な処置をすることや、水虫の治療を行い、足に傷を作らないことで少しは予防できるかもしれません。また、普段と違う症状の場合は、早めの医療機関受診が良いと思います。